息 苦しい空気が流れる。



『あとは2人で』と、花嫁・花婿の父親は散々 酔った後こう言って、それぞれの家来達を皆引き連れ部屋をあとにした。


─何か、俺に聞かれ ては困る様な細かい事決めをするため、別の部屋に移ったのだろう。



そ れにしても、これは堪え難い。生まれてこのかた、侍女達とさえまともに言葉を交わした事の無い時春は、まったくどうしていいか解らなかった。


と りあえず、このまま永久に無言のままでは相手に失礼だろうと、時春は目の前に飾りさながら美しく三角に盛られている餅の小山に目をやった。



「ど うですか、ええと…餅」


「あなたがお先に食べてください」


雪 乃の突き刺すような声にまたたじろきながら、かといってそんな様子を微塵も見せまいと心をしゃんと落ち着かせ、時春は穏やかに言った。



「… 毒なんて盛っていませんよ」




雪乃はこちらを見向 きもしない。


「もちろん盛られていたら困ります」



こ こで話が途切れてしまったので、仕方無く時春は雪乃の言う通りにした。何でも良いから、この止まった時の空間を一刻も早く流れさせたかった。



「… あまり、旨い餅では無いですが」謙遜ではなく、本当に『美味い』とは言えなかったのだ。何と言うのか、喩えるなら4日も前の昼飯に出された餅の失敗したも のを掻き集め、もう一度ついて丸め粉をまぶし、綺麗に誤魔化して積んでおいたというような味だ。



雪 乃は前を向いたままちらと時春の方を見た。…と時春は思った。
時春も完全に雪乃の方に体を向けている訳では無いが、十二単の袖から雪 乃の白く細い指が膳に伸びたのははっきりと見えた。



「どうぞ」



ほ とんど口を動かさず表情も変えずものを食する人の姿は、今までに見た事も無く儚なげで、なんとも不思議な光景だった。



─ 美しい女は皆、こういうものなのか?






「先 程、『あまり旨い餅では無い』とおっしゃいましたね」



雪乃がいきなり 喋ったので、時春はまだ持っていた餅の残りをボトリと袴に落としてしまった。



「あ あ…はい、ええ。申しました」



時春の挙動不審な行動にも物ともせず、 まるで何もなかったかの様に雪乃が言う。



「あなたは間違っています」




時 春はあっけに取られて、思わず真っ直ぐに雪乃を見た。



「美味かったの ですか」



無防備なその問いは、痛く強く攻される事で非常にあっけなく 時春の頭から消え去った。



気付くと雪乃がこちらを向いて、笑ってい る。
それは先の冷たい瞳とは対照であった。



だが もっと奥深くでは、冷たさも明るさも、決して真逆とは言えぬことを警告している。







「こ れは餅では無く、団子です」










「泰 春殿。どうでしょうか」

「あい。何であるか」

「雪乃は役に立ちそうで すか」

「はっは、役に立つも何も、あれほどの美人が、うちの時春と添うてくれると思うたら、わしは嬉しゅうて、 嬉しゅうてよ、」

「それは誠に良き事でございます」

「ほっほっ、ひ いっく」






「こ れからも、仲よおくいたしましょうぞ」

「うむ、もちろんじゃ」